小規模事業者持続化補助金(一般型)は、公募回を重ねるごとに採択率が低下傾向にあります。第1回公募では採択率90.9%(応募8,044件・採択7,308件)と高水準でしたが、近年では急激に下がり、第16回公募では37.2%(応募7,371件・採択2,741件)にまで落ち込んでいます。
このように採択率が40%を切る環境では、事業計画の内容だけでなく「加点項目」をいかに活用するかが合否を分ける大きな要素となります。加点項目とは、ガイドラインに定められた特定の要件を満たすことで、審査時に加点される制度です。採択率向上のためには、自社が該当し得る加点項目を漏れなく確認し、申請書に適切に盛り込むことが重要です。
第18回公募における加点項目の全体像
第18回公募(第3版要領)では、加点項目は「重点政策加点」と「政策加点」の2区分に分かれ、重点政策加点から1種類、政策加点から1種類、合計2種類まで選択できます。以下、各項目の概要と要件、注意点、実践アドバイスを解説します。
重点政策加点
- 赤字賃上げ加点: 賃金引上げ特例(賃上げ特例)で申請し、かつ業績が赤字の事業者が対象です。要件を満たす場合、申請時に「賃金引上げ特例(赤字事業者)」を希望するだけで自動的に加点されます。注意点として、特例を選択していても本当に赤字である必要がありますので、経営状況を証明する書類を準備しましょう。
アドバイス: 現時点で赤字の場合は申請区分で「賃金引上げ特例(赤字)」を必ず選び、決算書などで赤字を証明できるように整えてください。また、賃上げ自体が計画どおり進まないと補助金が不交付になる可能性もあるため、計画的な賃金引上げを検討してください。 - 事業環境変化加点: ウクライナ情勢や原油・LPガス価格の高騰など、物価高騰の影響を受けている事業者が対象です。申請フォームで「事業環境変化加点」を選択し、経営計画欄に具体的な影響内容(値上げ率やコスト増額など)を記入します。ポイントは、物価高による売上減少や仕入れコスト増などを具体的数値で示すことです。
アドバイス: 原材料価格の上昇など客観的データを添えて申請すると説得力が増します。また虚偽の申告は問題なので、実態に即した内容を記載してください。 - 東日本大震災加点: 福島第一原発事故の影響を受け、厳しい経営環境にある事業者が対象です。具体的には、①福島県内の12市町村(田村市、南相馬市など)に事業所がある事業者、または②太平洋沿岸部(北海道・青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉)の漁業仲卸・加工業者が該当します。申請時に「③-1 福島12市町村」または「③-2 太平洋沿岸部水産業」のいずれかを選択し、該当する事業所の所在地や営業許可証の写し(漁業者の場合)を提出します。注意点として、②の水産業者は食品衛生法の営業許可が必須なので、事前に許可証を確認しておきましょう。
アドバイス: 該当地域にある事業所や水産業者は、申請フォームで正しく区分を選択し、必要書類をそろえることで確実に加点対象となります。 - くるみん・えるぼし加点: 「くるみん認定」または「えるぼし認定」を受けている事業者が対象です。これらは、次世代育成支援対策推進法(くるみん)および女性活躍推進法(えるぼし)に基づく認定制度です。申請フォームで「くるみん・えるぼし加点」を選択し、基準適合一般事業主認定通知書(認定証)の写しを提出します。なお「一般事業主行動計画策定加点」と重なる場合は、重点政策加点の枠でのみ加点される点に留意してください。
アドバイス: 認定を受けている場合は必ず該当欄にチェックし、認定証コピーを忘れず添付しましょう。新たに申請して認定を目指す場合は、事前に手続きを完了させておく必要があります。
政策加点
- 賃金引上げ加点: 一般的な賃金引上げに対する加点です。補助事業終了時点で、申請時より「事業場内最低賃金」を30円以上引き上げていることが条件です。この要件を満たさない場合は、採択後でも補助金が交付されません。申請時には「賃金引上げ加点」を選択し、誓約書にチェックを入れます。また、労働基準法に基づく賃金台帳(直近1か月分)や雇用契約書等を準備し、実績報告時にも引上げ後の賃金台帳を提出する必要があります。
注意点: 賃金引上げは厳格に審査されるため、計画どおりに賃上げを実行し、台帳で証明できるようにしましょう。
アドバイス: 早めに賃金引上げのスケジュールを決め、対象従業員の範囲や引上げ幅を明確に計画書に書き込むと良いでしょう。 - 地方創生型加点: 地域資源を活用した販路開拓や、地域課題解決に取り組む事業計画に対する加点です。申請時に「2-① 地域資源型」または「2-② 地域コミュニティ型」のいずれかを選択し、経営計画書に具体的な取組内容を記載します。例えば、地場産品を用いた高付加価値商品を開発する計画や、地域住民向けの新サービス開発計画などが該当します。
アドバイス: 計画内容が明確に「地域資源型」か「コミュニティ型」になっていることを意識し、取組の具体性と地域貢献度をしっかり示しましょう。 - 経営力向上計画加点: 経営力向上計画(中小企業等経営強化法)の認定を取得している事業者に対する加点です。認定は各回の基準日までに取得している必要があります。申請時に「経営力向上計画加点」を選び、認定書の写しを提出します。認定を取得していない場合は加点対象外となるため注意してください。
アドバイス: 今後取得予定の方は、申請締切前に認定を完了させるスケジュールを逆算し、余裕を持って準備を進めましょう。 - 事業承継加点: 申請時点で代表者が満60歳以上であり、後継者候補が補助事業を中心に実施する計画の場合に加点されます。申請フォームで「事業承継加点」を選択し、事業承継計画の概要を記入します。さらに、代表者の生年月日を確認できる公的書類(運転免許証など)の写しや、後継者候補の実在がわかる書類(役員登記簿謄本や雇用契約書など)を提出します。また、商工会・商工会議所が発行する「事業承継診断票」(様式10)を添付する必要があります。
注意点: 前回までに同枠で支援を受けた事業者は対象外ですが、年度が異なり上記要件を新たに満たせば申請可能です。
アドバイス: 診断票は商工会議所で取得が必要なので、事業支援計画書(様式4)依頼時に同時に手配しておきましょう。提出書類が多いので、不明点は専門家に相談すると安心です。 - 過疎地域加点: 過疎地域に所在する事業者で、地域経済の持続的発展に資する取組を行う場合に加点されます。具体的には「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」で定める過疎地域に立地する必要があります。申請時に「過疎地域加点」を選択すれば対象となります。
アドバイス: 自社の所在地が過疎指定を受けているか、総務省や都道府県の情報をあらかじめ確認しておきましょう。過疎地域でなければ選択不可のため、間違えないよう注意してください。 - 一般事業主行動計画策定加点: 従業員100人以下の事業者で、女性活躍推進法または次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定・公表している場合に加点されます。具体的には、厚労省の「女性活躍推進企業データベース」または「両立支援のひろば」に計画を掲載していることが必要です。計画期間には公募締切日と補助事業終了予定日が含まれている必要があります。申請時に「一般事業主行動計画策定加点」を選択し、計画掲載URLを経営計画書に入力します。なお、「くるみん・えるぼし加点」と両方該当する場合は重点加点としてのみ加点されるので注意してください。
アドバイス: URLは正確に入力し、掲載情報が最新であることを確認しましょう。 - 後継者支援加点: 将来の事業承継を見据え、「アトツギ甲子園」のファイナリストまたは準ファイナリストに選ばれている事業者が対象です。申請時に「後継者支援加点」を選択し、選出年度を入力します。過去に持続化補助金の「後継者支援枠」で採択された事業者は基本的に対象外ですが、別年度で新たに要件を満たす場合は申請可能です。
アドバイス: 参加歴がある場合は公式サイトなどでファイナリスト認定証を取得し、提出できる準備をしておくと安心です。 - 小規模事業者卒業加点: 小規模事業者からの「卒業」を目指す事業者向けの加点です。補助事業終了時点において、常時使用する従業員数が業種別の小規模事業者定義(商業・通常サービス業は5人以下→6人以上、宿泊・娯楽サービス業は20人以下→21人以上、製造業等は20人以下→21人以上)を超えている必要があります。達成できない場合は交付決定後でも補助金が交付されません。申請時には「小規模事業者卒業加点」を選択し、誓約書にチェック、直近の労働者名簿(常時雇用分のみ)を提出します。実績報告時にも、補助事業終了時点の最新名簿を提出します。
アドバイス: 人員増加計画を早めに実行し、必要人数を超えるように採用計画を立てましょう。提出書類に記載する従業員数が間違いないか、経営計画書と一貫性があるかも確認してください。 - 事業継続力強化計画策定加点: 中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」または「連携事業継続力強化計画」の認定を受けている事業者(申請締切までに認定取得、かつ実施期間未終了)に加点されます。申請時に「事業継続力強化計画策定加点」を選択し、計画の受付番号と実施期間(開始・終期)を入力します。締切日以降の認定や、計画実施期間が終了している場合は対象外です。
アドバイス: 認定状況を事前に確認し、受付番号など必要情報を正確に登録してください。 - 令和6年能登半島地震等に伴う加点: 令和6年の能登半島地震および令和6年能登豪雨の影響で売上減少の被害を受けた事業者が対象です。対象地域は石川県、富山県、新潟県、福井県内の事業所で、地震被害の場合は令和6年1月~令和7年10月のいずれか1か月、豪雨被害の場合は令和6年9月~令和7年10月のいずれか1か月の売上高が前年同期または東日本大震災前同期比で20%以上減少している必要があります。申請時に「令和6年能登半島地震等に伴う加点」を選択し、対象の年月と証明書(セーフティネット保証4号認定書など)の写しを提出します。「災害支援枠」で既に採択済みの場合は対象外となるため注意してください。
アドバイス: 収支表や会計帳簿で対象月の売上減少率を明示し、自治体発行の証明書など客観資料を準備しておくことが鍵です。
第18回公募における加点項目の難易度
下記に、各加点項目の実現難易度を一覧化しました。
本記事に記載している「難易度」は、要件の複雑さや準備工数、申請における実務上のハードル感をもとに、筆者の主観により目安として分類したものです。個々の事業者の状況によって感じ方や対応可能性は異なりますので、あくまで参考情報としてご活用ください。
加点項目 | 区分 | 難易度 | 対象条件・注意点 |
赤字賃上げ加点 | 重点 | 高 | 赤字かつ賃上げが必要。提出書類も多く、計画達成が難しいケースあり。 |
事業環境変化加点 | 重点 | 低 | コスト上昇や売上減などの実績があれば比較的申請しやすい。 |
東日本大震災加点 | 重点 | ― | ※福島県など特定地域・業種の事業者に限定。該当する場合は提出書類のみで対応可能。 |
くるみん・えるぼし加点 | 重点 | 高 | 認定取得までの期間とハードルが高く、既存認定者向け。 |
賃金引上げ加点 | 政策 | 中 | 台帳や証拠書類の整備が必要。達成できないと交付取消のリスクも。 |
地方創生型加点 | 政策 | 中 | 地域資源や地域課題に即した内容が求められる。具体的な計画が必要。 |
経営力向上計画加点 | 政策 | 低 | 計画認定にやや時間がかかるが、手続きは比較的シンプル。 |
事業承継加点 | 政策 | 中 | 書類数が多く、後継者の主体性や商工会関与が求められる。 |
過疎地域加点 | 政策 | ― | ※過疎地域に所在している事業者に限定。条件を満たせば申請は容易。 |
一般事業主行動計画加点 | 政策 | 中 | 計画作成とWeb掲載が必要。意欲があれば十分可能。 |
後継者支援加点 | 政策 | ― | ※アトツギ甲子園ファイナリストなど該当者限定。対象者はかなり限られる。 |
小規模事業者卒業加点 | 政策 | 高 | 従業員の増加が前提。未達成の場合、補助金返還のリスクも。 |
事業継続力強化計画加点 | 政策 | 低 | 認定に多少の手間がかかるが、達成しやすい。 |
能登半島地震等加点 | 政策 | ― | ※石川・富山・新潟・福井などの被災地域に限定。売上減の証明が必要。 |
実務上おすすめの加点項目とは?
上記を踏まえて、実務的にも活用しやすく、申請時に優先して検討したい加点項目は以下のとおりです。
- 賃金引上げ加点:計画と台帳の整備ができれば、確実な加点につながります。
- 事業環境変化加点:物価上昇等の影響を受けていれば非常に申請しやすい。
- 経営力向上計画加点:今後の補助金申請にも使える”汎用加点”。
- 事業継続力強化計画加点:リスク管理の側面でも有用で、認定取得も現実的です。
行政書士によるサポートとお問合せ
加点項目の要件は複雑で、必要書類の準備や計画書の記載内容にも細かな注意が必要です。行政書士は補助金申請の専門家として、要件確認や証拠書類の整備、計画書作成のアドバイスが可能です。特に今回のような加点項目では、申請書の書き方一つで得点に差が出ることもあります。
お困りの際はお気軽に行政書士藤原七海事務所までご相談ください。的確なサポートにより、採択率アップに向けた準備を強力にバックアップいたします。
加えて当事務所では、より高品質なサービスを提供すべく 提携先の行政書士とともに、単独受任時と変わらない報酬での共同受任にも応じています。
提携先事務所:crenlylaw.com
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行政書士藤原七海事務所の藤原です。
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