「単独のIT導入」では改善しきれない。商店街・テナントビル・温泉街・飲食店街・市場・問屋街、あるいは取引先を含むサプライチェーン全体で、共通課題をまとめて解決したい。そんな現場ニーズに応えるのが、複数者連携デジタル化・AI導入枠です。
本枠は、商業集積地やサプライチェーンに関係する複数の中小企業・小規模事業者等が連携してITツールを導入し、生産性向上を狙う取り組みを対象に、通常枠より補助率を引き上げ、さらに連携を回すためのコーディネート費や、データ活用に助言する外部専門家の謝金等まで支援する点が特徴です。
この記事では、交付規程に基づき「制度の全体像→要件→補助内容→申請の流れ→採択・運用の注意点」まで、実務で迷いがちなポイントを中心に整理します(詳細は公募要領・様式等で必ず最新確認してください)。
1. 制度の全体像:誰が、何をする枠なのか
1) 「補助事業グループ」で申請する(10者以上)
本枠は、単体の企業が単独で申請する枠ではありません。交付規程では、同一の補助事業を実施するまとまりを「補助事業グループ」と定義し、その構成員(代表事業者+参画事業者)を10者以上としています。
- 代表事業者:グループの取りまとめ役(申請・報告等の窓口)
- 参画事業者:代表事業者の管理のもと、実際にITツールを導入・活用する事業者
この「10者以上」という要件は、企画段階での最大のハードルになりがちです。逆に言えば、要件を満たすグルーピングと役割分担設計ができれば、制度のメリット(補助率・対象経費の広さ)を最大化できます。
2) IT提供事業者・外部専門家は「構成員になれない」
本枠では、ITツールを提供するベンダー等を「IT提供事業者」、データ活用の助言等を行う者を「外部専門家」として位置付けています。重要なのは、どちらも原則としてグループ構成員になれない点です。
- IT提供事業者:導入・説明・運用サポートを担う(ただし構成員にはならない)
- 外部専門家:導入したITツールから得たデータを活用し、マーケ・情報発信・新商品開発等の助言を担う(構成員にはならない)
「グループ化=同業者が固まる」だけでなく、ベンダー・専門家との関係整理(契約・支払区分)まで含めて設計しておく必要があります。
2. 交付の目的:何を“成果”として求められるのか
交付規程が明示する狙いはシンプルです。
- 複数の事業者が連携して
- ITツールを導入し
- 生産性向上を実現する
- そのために、通常枠より有利な補助率で支援し、連携運用(コーディネート費)やデータ活用の助言(外部専門家謝金等)も支援する
ここでいう「ITツール」は、ソフトウェア(AI含む)・オプション・役務・ハードウェアの総称で、グループの生産性向上に資することが求められます。
3. 申請要件:まず押さえるべき“必須条件”
1) 全構成員に課される「生産性向上の2年計画」
グループ構成員には、労働生産性について要件を満たす2年間の事業計画の策定・実行が求められます。ポイントは「年平均成長率」です。
- 原則:労働生産性を年平均成長率5%以上向上
- ただし、過去に特定の交付決定を受けた事業者が構成員に含まれる場合:6%以上向上
※労働生産性の計算方法は公募要領等に委ねられています(交付規程上も「公募要領等に定める方法」)。
この要件は「申請書での作文」ではなく、交付後に事業実施効果の報告も前提となります。代表事業者は、参画事業者やIT提供事業者と協力して、生産性向上に係る情報等の報告を提出する義務があるため、KPI設計と測定手段を導入前から決めることが実務上の分岐点です。
2) 代表事業者に求められる追加要件(実務の要)
代表事業者は「取りまとめ役」として、要件が重く設定されています。代表的なものは以下です。
- GビズIDプライムの取得
- IPAのSECURITY ACTION(一つ星/二つ星)宣言(申請情報をIPAと共有することへの同意を含む)
- 交付申請、実績報告、事業実施効果報告等の取りまとめ、および関係者とのコミュニケーション窓口
“代表になれる組織”が限定されるケースもあるため、企画段階で「誰が代表を担うのか」を最初に確定させるのが鉄則です。
3) 参画事業者の追加要件
参画事業者側にも条件があります。特に重要なのは、IT提供事業者が提供するITツールを利用し、代表事業者の管理のもとで補助事業を遂行すること。
つまり、グループ内で「ツール導入のばらつき」や「勝手運用」が起きると、計画の整合性が崩れます。導入範囲・利用ルール・データ連携方針を、代表事業者が“管理できる形”で整備しましょう。
4. 補助内容:何にいくら、どれくらい補助が出るのか
交付規程の別表には、補助区分が整理されています。大きくは、(A)インボイス対応類型に属する経費 と、(B)複数者連携枠特有の経費、の組合せで考えると理解しやすいです。
A. インボイス対応類型の要件に属する経費(基礎となる導入費)
- ITツール(ソフトウェア・オプション・役務):~350万円
- ~50万円以下:補助率 3/4(中小企業)または4/5(小規模)
- 50万円超~350万円:補助率 2/3
- PC・タブレット等:~10万円(補助率1/2)
- レジ・券売機:~20万円(補助率1/2)
- 補助金上限額:3,000万円
※対象となるソフトウェアは「会計・受発注・決済のいずれかの機能」を有するものとされています。
B. 複数者連携枠“特有”の経費(連携・データ活用を推進する費用)
ここが本枠の肝です。単なる会計・決済導入に留まらず、消費動向等の分析や需要予測、電子地域通貨、キャッシュレス、生体認証決済といった「地域・連携のDX」を後押しする設計になっています。
- 消費動向等分析経費:50万円 × グループ構成員数(補助率2/3)
- 対象例:消費動向分析システム、経営分析システム、需要予測、電子地域通貨、キャッシュレス、生体認証決済等
- 取りまとめ事務費・外部専門家謝金・旅費:
- 「インボイス対応類型の要件に属する経費」+「消費動向等分析経費」の合算の10%(補助率2/3、上限200万円)
この構造から見える“採択されやすい企画”の方向性は明確です。
①インボイス・決済などの基盤整備(守り)に加え、②データ取得→分析→施策→売上/効率改善(攻め)までを、グループ全体の共通設計として落とし込む。これが本枠の思想に合致します。
ハードウェア購入費の対象範囲(注意)
ハードウェアは“何でもOK”ではありません。購入費の内訳は限定され、例示としてPC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機、POSレジ等に絞られています。
現場でありがちな「周辺機器もついでに」は対象外になり得るため、見積り段階で線引きを徹底しましょう。
5. 申請方法:実務フローを「時系列」で理解する
交付規程上、申請は代表事業者が取りまとめ、原則として電磁的方法で事務局に提出します。代表事業者は、補助事業に着手する前に、グループとしての事業計画と参画事業者の申請情報をまとめて交付申請します。
ステップ0:企画設計(ここで8割決まる)
- 10者以上の構成員確保(代表・参画の区分)
- 共通課題の言語化(現状→課題→目標)
- ITツールの選定(会計/受発注/決済+分析系)
- KPI設計(労働生産性・業務工数・来店/購買等)
- データの取り方と運用ルール(誰が何を入力/取得し、どう分析し、どう施策に落とすか)
ステップ1:代表要件の整備(GビズID・SECURITY ACTION)
代表事業者はGビズIDプライム取得が必要で、SECURITY ACTION宣言も求められます。
この準備が遅れると、そもそも申請の土俵に乗りません。早めの着手が必須です。
ステップ2:交付申請(電磁的方法)
代表事業者が取りまとめて交付申請を行います。
このとき、提出した申請情報は、事務局が定める期日まで保存し、要求があれば閲覧できるようにする義務があります。
ステップ3:交付決定
事務局が審査し、交付すべきと認めた場合、交付決定通知が行われます。
※必要に応じて条件が付されることがあります(不備対応を含め、条件の解消が重要)。
ステップ4:事業実施(導入→運用→証憑管理)
導入後は、経費の証拠書類を整備し、他の経理と明確に区分して管理する義務があります。
さらに、証拠書類は完了後も一定期間保存が求められます。
ステップ5:実績報告→確定→補助金交付
実績報告は原則電磁的方法で行い、事務局は検査等のうえ補助金額を確定し、通知後に交付します。
ステップ6:事業実施効果の報告(“やりっぱなし”は不可)
代表事業者は、参画事業者やIT提供事業者と協力して、生産性向上に係る情報等を取りまとめ、所定期間の効果報告を提出します。
この報告を見据え、最初から「効果測定できる運用」にしておくことが、結果的に負担とリスクを下げます。
6. 取り消し・返還リスク:落とし穴を先に潰す
補助金は「もらったら終わり」ではありません。交付規程には、交付決定の取消しや返還に関する規定があり、代表的なリスクとして以下が挙げられます。
- 実績報告の未提出・不備未解消など、期限までに所定手続が完了しない
- 虚偽申請等の不正
- 補助対象ツールを導入日から1年未満で利用しなくなった等
また、取得価格単価が50万円以上の財産は「処分制限財産」として目的外使用や譲渡等が制限され、承認が必要となる点にも注意が必要です。
7. 実務目線の“成功パターン”:採択・運用が強い設計とは
最後に、交付規程の思想(目的・対象経費・報告義務)から逆算して、実務上強い設計を3つの観点でまとめます。
① 連携の“共通課題”が明確
商店街なら「来街者減少・客単価・人手不足」、サプライチェーンなら「受発注・在庫・納期・請求/決済」。全員が同じ痛みを持ち、ITで共通改善できる設計が必要です。
② データ活用が“導入後の運用”まで描けている
外部専門家が助言する前提は、データが取れていること。つまり、データ取得手段(カメラ・ビーコン・POS等)→分析→施策(販促/品揃え/人員配置)が一連で設計されている企画ほど、本枠に適合します(消費動向等分析経費の考え方)。
③ 代表事業者の“事務局力”がある
代表事業者には、申請・実績・効果報告の取りまとめに加え、各種調整の主体的役割が求められます。
事務局力(進行管理・情報収集・期限管理)が弱いと、導入自体が成功しても手続ミスでリスク化します。ここは“仕組み”で補うのが現実的です(タスク管理、証憑フォルダ設計、テンプレ化など)。
8. まとめ:この枠は「連携×データ活用」を本気で進めたいグループ向け
複数者連携デジタル化・AI導入枠は、単なるIT導入支援ではなく、連携による生産性向上とデータ活用による付加価値創出まで見据えた制度です。10者以上の組成、2年の生産性計画、代表事業者の重い役割、そして効果報告等、要件は厳しめですが、別表に示された支援範囲(分析系・コーディネート費・外部専門家謝金等)は、地域DX・業界DXを進めるうえで非常に強力です。
代表挨拶

行政書士藤原七海事務所の藤原です。
当事務所では補助金申請のサポートに力をいれております。
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