IT導入補助金は、中小企業や個人事業主が「ITを使って仕事をラクに、正確にしていきたい」という思いを後押ししてくれる制度です。
会計ソフト、予約システム、ECサイト、顧客管理、チャットボット、AI解析ツール…
これまで「導入したいけれどコストが重い」と感じていたツールも、この補助金を活用することで、自己負担を抑えながら導入・活用していくことができます。
ITツールそのものだけでなく、
- 導入時の設定・初期指導
- 従業員向けの研修
- 活用・定着のためのコンサルティング
といった「導入後の活用・定着」までを見据えた支援も対象です。
この記事では、IT導入支援事業者としてのベンダー登録経験と、IT導入補助金の支援・採択実績が豊富な行政書士が、はじめてIT導入補助金に挑戦される方向けに、
- 交付申請の基本的な考え方
- 申請の流れ
- 必要書類
- 事前準備のポイント
を、公募要領の内容に沿いながら、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
IT導入補助金とは?
「サービス等生産性向上IT導入支援事業」という制度
IT導入補助金の正式名称は、「サービス等生産性向上IT導入支援事業」といいます。対象となるのは、公募要領で定められた中小企業・小規模事業者等で、
- 製造業
- 飲食業
- 小売業
- サービス業
- 医療・福祉 など
多くの業種が含まれます。
「うちは対象外かも?」と思われる方でも、
資本金や従業員数の条件を確認すると、対象に含まれているケースは少なくありません。
迷ったときは、公募要領の「対象事業者の要件」の表を必ず確認しましょう。
交付申請とは何をする手続き?
交付申請とは、簡単にいうと
「この計画で、これだけのIT投資をしたいので、補助金の交付をお願いします」
と、事務局に申し込むステップです。
- どのITツールを
- どのくらいの金額で
- どんな目的で導入するのか
を、申請者(中小企業・個人事業主)と、登録されたIT導入支援事業者が相談しながら整理し、
オンラインの「申請マイページ」から事務局へ申請します。
2025年度公募要領で押さえておきたいポイント
1. 導入・活用・定着までを支える経費が対象
IT導入補助金では、ソフトウェア本体に加えて、
- 従業員向けの操作研修
- 社内定着のためのコンサルティング
- 業務フローの見直し支援 など
「ツールをちゃんと使いこなすためのプロセス」に関する役務も、一定の要件を満たせば補助対象経費に含めることができます。単にシステムを導入するだけでなく、それを現場の業務に落とし込み、
- 売上アップ
- 業務時間の削減
- ミスの削減
といった成果(生産性向上)につなげることが、制度のゴールとして重視されています。
2. AI・音声認識・データ活用など高度なツールにも対応
公募要領で定める「業務プロセス」の要件を満たし、IT導入支援事業者の登録を受けたITツールであれば、
- AI解析・レコメンド機能
- 音声認識・自動文字起こし
- BIツール・ダッシュボードによるデータ可視化
- チャットボット・問い合わせ自動化
などの機能を持つツールも補助対象になり得ます。
3. 補助率・補助額のイメージ
補助率・補助上限額は、「通常枠」「インボイス枠」「セキュリティ対策推進枠」など、
申請する枠によって異なりますが、イメージとしては次のような形です(数値例・詳細は公募要領を要確認)。
- 通常枠
- 補助率:原則 1/2 以内
- 一定の賃金要件等を満たす場合:補助率が 2/3 以内 となるケースあり
- セキュリティ対策推進枠
- 補助額:5万円〜150万円 の範囲で設定
- 補助率:小規模事業者 2/3 以内、中小企業者 1/2 以内(枠の要件に従う)
具体的な金額や条件は、年度や枠ごとに細かく定められています。「どの枠で申請するのか」によって大きく変わるため、公募要領の表を必ずチェックしておきましょう。
交付申請前に必ず準備しておきたい3つ+1つ
1. gBizIDプライムの取得(必須)
gBizIDプライムは、オンラインで各種行政手続を行うための共通のログインIDです。
IT導入補助金の交付申請にも、このアカウントが必要です。
- 発行までに おおむね2週間程度 かかるとされています
- 申請締切ギリギリに申し込むと、交付申請に間に合わないおそれがあります
そのため、IT導入補助金を少しでも検討し始めた段階で、
できるだけ早めにgBizIDプライムの取得手続きを進めておくことをおすすめします。
2. SECURITY ACTION の宣言(申請要件)
SECURITY ACTION(セキュリティアクション)は、
中小企業が情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度です。
通常枠では、
- 「★一つ星」または「★★二つ星」の宣言
- 交付申請時に 宣言済みアカウントIDを入力
が申請の要件とされています。
補助金のためだけでなく、自社のセキュリティ対策を見直す良いきっかけにもなりますので、
早めに宣言を済ませておきましょう。
3. IT戦略ナビ with の実施(任意だが加点あり)
IT戦略ナビ withは、自社の経営課題や業務の状況を入力すると、「どの領域のITツールが有効か」を診断してくれるツールです。
- 実施は任意ですが、
- 結果(IT戦略マップ)のPDFを交付申請時に添付することで、加点対象となります。
「自社の課題整理」にも役立つため、申請前の自己診断としてもおすすめです。
4. 「みなし同一法人」にも注意
交付申請できる件数は、年度を通し、基本的に
- 1法人あたり1件
- 1個人事業主あたり1件
とされています。また、
- 親会社と子会社
- 実質的な支配関係がある複数法人
など、一定の条件に該当する場合は、「みなし同一法人」とみなされ、グループ全体で申請件数が制限されることがあります。代表者や役員が複数の会社に関わっている場合は、
- どの法人で申請するのか
- 他の関係会社がすでに申請していないか
を早めに整理しておくことが大切です。(インボイス枠やセキュリティ対策推進枠など、別枠の扱いについては公募要領の該当箇所で確認しましょう。)
交付申請の基本的な流れ
ここからは、実際に「申請マイページ」を使って交付申請を行う際の、大まかな流れを見ていきます。
STEP1:IT導入支援事業者・ITツールの選定
まずは、自社の課題や希望に合った
- IT導入支援事業者(ITベンダー)
- ITツール(ソフトウェア・クラウドサービス等)
をIT導入補助金のホームページから検索して選びます。「まず有名なツールありき」ではなく、
『どんな業務を改善したいか』 → 『それに合うツール』
の順番で考えると、後悔の少ない選択につながります。この段階で、
- 概算の見積
- 導入スケジュール
- 導入後のサポート体制
などを確認しておくと、交付申請書の作成もスムーズです。なお、IT導入支援事業者は同一年度で、1社しか選ぶことができません。
STEP2:事前準備(ID・書類・社内情報)
IT導入支援事業者が決まったら、申請に必要な準備を進めます。
- gBizIDプライムの取得
- SECURITY ACTION(一つ星/二つ星)の宣言
- 直近の決算書・確定申告書の準備
- 法人・個人の納税証明書の準備
- 従業員数・賃金状況・就業形態に関する情報整理
- (該当する場合)賃金状況報告シートの作成
など、取り寄せや作成に時間がかかるものから先に着手しておくと安心です。このタイミングで、行政書士など専門家に一度相談しておくと、
- 「この契約形態でも申請できるか」
- 「どの書類が、どのタイミングで必要か」
といった細かな不安を整理しやすくなります。
STEP3:申請マイページの招待・開設
IT導入支援事業者側から、申請者(中小企業・個人事業主)に対して、
申請マイページの招待メールが送られてきます。
- メールの案内に従ってアカウントを登録
- 事業所情報や代表者情報を入力
- 財務情報・従業員数などの基本情報を入力
といった作業を、支援事業者と相談しながら進めていきます。
STEP4:交付申請情報の入力
続いて、申請マイページ上で、交付申請に必要な情報を入力します。
- 導入予定のITツール・オプション・役務の内容
- 補助対象経費の内訳・金額
- 現状の課題と、IT導入による改善イメージ
- 業務プロセスの変化や、期待される効果
- 賃上げや従業員への還元方針 など
多くの場合、
- IT導入支援事業者:ツールの仕様や価格情報を入力
- 申請者:経営状況・業務課題・今後の方針を入力
という役割分担で進めていきます。
STEP5:内容確認・申請データの送信
入力内容がまとまったら、最後に
- 申請内容の最終確認
- 申請者による「宣誓」等のチェック
- 交付申請データの送信
を行います。gBizIDプライムの利用時には、SMSによる二要素認証が行われるため、登録済みの電話番号にSMSが届く環境かどうかも事前に確認しておきましょう。申請締切が近づくとシステムへのアクセスが集中し、
- 画面が重くなる
- 動作が不安定になる
といったことも起こりがちです。締切ギリギリではなく、数日前までの提出を意識して動いておくと、精神的にもずいぶんラクになります。
必要書類と準備のポイント
交付申請で必要となる書類は、法人・個人事業主、申請枠によって異なりますが、代表的なものは次のとおりです。
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
会社の登記内容(商号・所在地・代表者など)を示す書類です。発行後3か月以内のものが求められます。 - 納税証明書
法人税・所得税などの納税状況を示すものです。
未納がある場合、審査に影響することがあります。 - 代表者の本人確認書類(個人事業主の場合など)
運転免許証、マイナンバーカード、在留カードなど。 - 確定申告書の控え(個人事業主の場合)
事業所得の状況を確認するための資料です。 - 賃金状況報告シート(該当者のみ)
補助率2/3の適用や賃上げ加点が関わる場合などに、従業員の賃金・雇用状況を確認する資料として求められます。
また、申請マイページに入力する内容と、書類の内容(住所表記・会社名・売上高など)がずれていると、
- 事務局からの問い合わせ
- 差し戻し
- 再提出
が発生し、審査が長引く原因になります。「この書き方で合っているかな?」と不安な箇所は、
IT導入支援事業者や行政書士にチェックしてもらうだけでも、後の手間がかなり減ります。
IT導入支援事業者との連携のコツ
交付申請は、申請者だけでは完結せず、IT導入支援事業者との「共同作業」です。
- 自社の課題・やりたいことをきちんと言語化して伝える
- 予算感や導入スケジュールの希望を共有する
- 誰が窓口になるか(経営者/担当者)を明確にしておく
といった準備があると、支援事業者側も提案しやすくなります。信頼できる支援事業者は、
- 申請書の書き方だけでなく
- 導入後の運用イメージ
- 社内での定着方法
まで一緒に考えてくれます。「補助金のためだけの導入」にならないよう、「本当に役に立つIT化」を一緒に組み立ててくれるパートナーを選ぶことが大切です。
まとめ:早めの準備と、専門家への相談が成功の近道
IT導入補助金の交付申請は、慣れないうちは少し複雑に見えますが、ポイントさえ押さえれば決して一部の企業だけの特別な制度ではありません。 2025年度は、補助率・補助額が条件付きで手厚くなり、AI・データ活用・セキュリティ対策、導入後の活用・定着支援まで含めた、より実務に寄り添った制度設計になっています。そのうえで大切なのは、
- gBizIDプライムやSECURITY ACTIONなどの事前準備を早めに済ませること
- 履歴事項全部証明書や決算書などの必要書類を計画的にそろえること
- 申請のパートナーとなるIT導入支援事業者と丁寧に連携すること
の3点です。ここを意識して進めるだけでも、不安や手間はぐっと軽くなります。
「うちでも本当に使えるのかな?」「最初の一歩が踏み出しにくい…」という場合は、ベンダー登録や支援・採択実績がある行政書士など専門家に一度相談してみるのもおすすめです。 本記事を参考に、IT導入補助金を上手に活用しながら、日々の業務を少しラクに、そして事業の成長につながる一歩として役立てていただければ嬉しいです。
代表挨拶

行政書士藤原七海事務所の藤原です。
当事務所では補助金申請のサポートに力をいれております。
補助金申請のお手続きに何かお困りごとがある方はお気軽にご相談ください。
お問い合わせ
フォーム
プライバシーポリシーをご確認のうえ、送信してください。フォームを送信後、ご入力いただいたメールアドレスに自動返信メールが送信されます。自動返信メールが迷惑メールフォルダに入る可能性がございます。ご確認いただけない場合、そちらもご確認いただけますと幸いです。
電話
LINE
