留学(交換留学・正規留学)や海外大学院進学、帰国後の単位認定(credit transfer)で、意外と“最後に詰まる”のが シラバス翻訳 です。成績証明書(Transcript)や在学証明書は大学が発行してくれる一方、シラバスは授業ごと・教員ごとに形式が異なり、必要な情報(到達目標、学修内容、評価方法、学修量、教科書、課題、週ごとのトピック等)が散らばっています。その結果、翻訳を準備する側が「何をどう訳せば、単位認定が通りやすいのか」を掴みにくく、提出直前に手戻りが発生しがちです。
海外側(留学先大学・学部・教務・教授)が見ているのは「日本語のシラバスを英語に直した文章」ではありません。彼らが評価したいのは、その授業が、どんな学問領域のどんなレベルで、どれくらいの負荷と評価で運用されたか という“判断材料”です。つまりシラバス翻訳は、翻訳というより 学術的・制度的に通る説明資料を作る作業 に近い性格があります。
本記事では、単位認定・留学で通りやすいシラバス翻訳にするための実務ポイントを、チェックリスト形式で整理し、最後に学科別の用語集(ミニグロッサリー)も付けました。
※提出先(留学先大学・学部・事務局)の指定書式や要件がある場合は、必ずそれを優先してください。
1. シラバス翻訳が求められる代表シーン(いつ・なぜ必要?)
1-1. 留学先での単位互換・履修許可の審査
留学先は「あなたが履修した(または履修予定の)科目が、先方の科目と同等か」を確認します。ここでは、科目名の英訳がかっこいいかどうかよりも、次の点が重要です。
- その授業は 学部レベルか/大学院レベルか
- どの領域(例:microeconomics, organic chemistry, algorithms)に該当するか
- どの程度の専門性・難易度か(前提知識、使用テキスト、到達目標)
- 学修量(授業時間、課題量、予習復習、試験比重)
実務上、ここで情報が不足すると「追加資料を提出してください」「授業の詳細が分かる資料を出してください」と追加照会が入り、時間がかかります。
1-2. 帰国後の単位認定(credit transfer)
帰国後は「留学先で取った単位を、日本の所属大学の単位として認定できるか」を審査します。日本側でも、授業内容や評価方法は判断材料になります。重要なのは、英訳が“上手い英語”であることよりも、内容の対応関係が追えることです。
つまり、英訳は「読んだ人が比較できる」構造になっているかが勝負です。
1-3. 大学院進学・編入・資格審査での提出
海外大学院では、出願時に過去の履修科目の内容を確認されることがあります。特に専門職大学院や理系分野では「前提科目の履修状況」が重要になるため、シラバス翻訳が役立ちます。ここでも見られるのは、内容(topics)と学修量(workload)と評価(assessment)です。
2. “通るシラバス翻訳”の基本思想:直訳より「評価できる情報設計」
シラバス翻訳で最も多い失敗は、直訳に寄りすぎて、読み手(海外大学の教務・教授)が評価できないことです。評価できない翻訳は、追加照会(追加資料要求)につながり、結果的に時間も費用も増えます。
通る翻訳にするには、次の3点を強く意識してください。
2-1. 評価軸を先にそろえる
海外大学が見る軸(Learning Outcomes、Assessment、Workload、Weekly Schedule 等)が欠けていると不利です。原文に散らばる情報を、英訳時に見つけやすい構造に整えます。
ここでのポイントは「原文を改変する」のではなく、「見出し構造で情報を整理して、相手が拾いやすい形にする」ことです。
2-2. 用語の“一貫性”を最優先する
同じ概念を毎回違う訳語にすると、別の内容に見えてしまいます。学科用語は統一し、必要なら括弧で補足します。
例:ゼミ=Seminar/Workshop/Tutorial が混在すると、読み手は授業形態を誤解します。最初に採用訳語を決め、初出で説明し、以降は統一します。
2-3. 数字・制度表記は“変換ミス”を起こさない
「単位」「授業時間」「評価比率」「課題回数」「週数」は、翻訳よりも整合が命です。
見た目がきれいでも数字がズレると、審査側は“資料として信用できない”と判断します。ここは厳密に。
3. シラバス翻訳で必ず押さえるべき10項目(チェックリスト)
以下の10項目がそろっていると、単位認定・履修審査が進みやすくなります。
- Course Title(科目名)
公式英語名があるならそれを採用。ない場合は内容に即した英語名を作り、必要に応じて原題(日本語)を併記。 - Course Code / Department(科目コード・開講組織)
学部・学科・プログラム名は固有名詞扱いで、表記ぶれを起こさない。 - Level / Year(対象学年・レベル)
Undergraduate / Graduate、Year 1–4 等を明確に。難易度の誤解を防ぎます。 - Credits / Contact Hours(単位数・授業時間)
日本の単位は海外のcreditと完全一致しないことがあるため、可能なら「週何分×何週」を併記して説明可能に。 - Course Description(授業概要)
直訳よりも、領域と範囲が分かる簡潔な説明が強い。先方が「どの科目に相当するか」を想像できる書き方に。 - Learning Outcomes(到達目標)
“理解する”だけでなく、できるようになること(説明できる/分析できる/設計できる)で書くと海外形式に合います。 - Topics / Weekly Schedule(授業計画)
週ごとのトピック、ケース、実験、演習など。単位認定で最も見られやすい部分です。 - Textbooks / Readings(教科書・参考文献)
英語表記で整える。版・著者名・出版社が分かると評価しやすい。 - Assessment / Grading(評価方法・成績評価)
Exam / Quiz / Assignment / Presentation / Participation の比重を明確化。曖昧な「平常点」は内訳に分解。 - Prerequisites(履修条件・前提知識)
先方が履修許可を出す材料になります。「基礎統計」「線形代数」等は、学科別用語で統一。
実務のコツ:原文にこれらが“書かれていない”場合、勝手に作るのではなく「原文にある情報を拾い上げて整理」します。補足が必要な場合は、原文と補足を明確に区別して記載します。
4. 翻訳の品質を上げる“実務のコツ”9つ(手戻りを減らす)
コツ1:固有名詞のルールを最初に決める
学部名・学科名・専攻名・研究科名・科目名は、表記ルールを決めて全科目で統一。特にローマ字表記の揺れ(例:Faculty of Economics / School of Economics)が混在すると、別組織に見えるリスクがあります。
コツ2:日本独自の授業形態は“説明付き”にする
ゼミ、輪講、演習、卒業研究などは直訳だけだと誤解されやすいです。
例:Seminar (small-group discussion-based class) / Reading seminar (paper discussion) など、初出で補足。
コツ3:評価項目は“海外の粒度”に合わせる
「出席・態度・レポートで総合評価」だと弱いので、可能な限り分解します。
例:Attendance 10% / Participation 10% / Reports 30% / Final Exam 50%
コツ4:学修量(Workload)を見える化する
提出先が学修負荷を重視することがあります。原文に目安があるなら英訳で見える位置に配置し、ない場合は「推奨学修時間が大学の規程で示されているか」を確認できると強いです(補足する場合は“補足”と明記)。
コツ5:シラバス英訳は“テンプレ構造”で統一する
科目ごとに形式が違うほど比較が難しくなります。英訳版は見出し構造を統一し、読み手がスキャンできるようにします。提出先が複数科目を並べて比較することを想定すると、テンプレ化は効きます。
コツ6:略語は初出で必ず展開する
例:PBL、TA、LMS、ICT、OJT
海外の読み手に通じない略語もあるため、初出で説明。以降は略語を使うと読みやすくなります。
コツ7:訳語が割れる用語は「用語集」を先に決める
学科用語は、後から揃えるほどコストが上がります。まず用語集で採用訳語を決め、全ページで統一します(本記事後半にミニ用語集あり)。
コツ8:翻訳対象の“単位認定で重要なページ”を優先する
全ページを等しく丁寧に訳すより、審査で見られるところ(評価、週ごとのトピック、教科書、前提知識)を先に確実に仕上げると、締切に強いです。
コツ9:完成後に「比較可能性チェック」を行う
最終成果物は、英語が自然かより「比較できるか」が重要です。
見出しがそろい、数字が一致し、評価軸が欠けていないかを横断的にチェックします。
5. 提出で強い「シラバス英訳テンプレ」(構成例)
英訳版の基本構成例です。科目ごとに形が違っても、英訳版は見出しを固定するのがコツです。
- Course Title / Course Code
- Department / Program
- Instructor / Contact
- Term / Schedule / Language of Instruction
- Credits / Contact Hours
- Course Description
- Learning Outcomes
- Topics (Weekly Schedule)
- Teaching Methods (Lecture / Seminar / Lab / Fieldwork)
- Assessment & Grading
- Textbooks & Readings
- Prerequisites
- Notes (Attendance policy, Academic integrity, etc.)
実務の一言:単位認定は“比較”です。テンプレ構造は、比較を助けるための最大の武器になります。
6. 学科別用語集(ミニグロッサリー:訳語の芯だけ集めました)
以下は、単位認定で頻出かつ訳語がぶれやすい用語を中心にまとめた“実務用の芯”です。提出先の慣例がある場合はそれに合わせて統一してください。
6-1. 人文系(文学・歴史・哲学)
- 史料批判:source criticism
- 文献講読:close reading / reading seminar
- 研究史:historiography / research history
- 解釈学:hermeneutics
- 批評理論:critical theory
- 口頭発表:oral presentation
- 論文:research paper / term paper
- 注釈:annotation / commentary
- 史料:historical sources / primary sources
6-2. 社会科学(経済・政治・社会・国際)
- 実証分析:empirical analysis
- 回帰分析:regression analysis
- 因果推論:causal inference
- パネルデータ:panel data
- フィールドワーク:fieldwork
- インタビュー調査:qualitative interviews
- 政策評価:policy evaluation
- 統計的有意性:statistical significance
- 仮説:hypothesis
- 反実仮想:counterfactual
6-3. 経営・会計・ファイナンス
- 管理会計:management accounting
- 財務会計:financial accounting
- 監査:audit / auditing
- 原価計算:cost accounting
- 企業価値評価:firm valuation / corporate valuation
- 資本コスト:cost of capital
- キャッシュフロー計算書:statement of cash flows
- ケーススタディ:case study (method)
- 事業計画:business plan
- KPI:key performance indicators
6-4. 法学(法律・政策法務)
- 判例:case law / judicial precedent
- 立法:legislation
- 解釈:interpretation
- 要件事実:legal elements / elements of a claim
- 契約不履行:breach of contract
- 損害賠償:damages / compensation
- 行政裁量:administrative discretion
- 憲法審査:constitutional review
- 不法行為:tort
- 取消し/無効:revocation / nullity
6-5. 工学(機械・電気・材料)
- 設計製図:engineering design and drafting
- 実験:laboratory experiment
- 計測:measurement / instrumentation
- 制御工学:control engineering
- 熱力学:thermodynamics
- 材料強度:strength of materials
- 回路解析:circuit analysis
- 信号処理:signal processing
- 解析:analysis / numerical analysis(文脈次第)
- 最適化:optimization
6-6. 情報・コンピュータサイエンス
- アルゴリズム:algorithms
- 計算量:computational complexity
- データ構造:data structures
- 機械学習:machine learning
- 監督学習:supervised learning
- 特徴量:features
- 評価指標:evaluation metrics
- 要件定義:requirements analysis / requirements definition
- 実装:implementation
- テスト:testing / test cases
- デバッグ:debugging
- 分散処理:distributed computing
6-7. 理学(数学・物理・化学・生物)
- 定理:theorem
- 証明:proof
- 演習:exercises / problem-solving session
- 実験レポート:lab report
- 反応速度論:chemical kinetics
- 熱力学第二法則:second law of thermodynamics
- 遺伝子発現:gene expression
- 生態系:ecosystem
- モデル化:modeling
- 近似:approximation
6-8. 教育・心理
- 学習指導案:lesson plan
- 形成的評価:formative assessment
- 総括的評価:summative assessment
- 発達段階:developmental stages
- 認知:cognition
- 質的研究:qualitative research
- 尺度:scale / measurement scale
- 信頼性:reliability
- 妥当性:validity
実務のおすすめ:この用語集に「あなたの学科の頻出語」を20〜50語追加して“専用辞書”にすると、複数科目の翻訳で品質が一気に安定します。特に「科目名」「研究テーマ」「分析手法」「評価項目」は追加すると効果が大きいです。
7. 仕上げの最終チェック(提出前にここだけ見ればOK)
- 科目名・学部名・学科名の表記が全科目で統一されている
- Credits / Hours / Weeks の数字が原文と一致している
- Learning Outcomes が「できる形」で書かれている(曖昧な understand ばかりになっていない)
- Assessment が具体(比率・回数・内容)で、平常点が分解されている
- 用語がぶれていない(同一概念に複数訳語を当てていない)
- 日本独自概念(ゼミ、輪講等)に補足がある
- 提出先の指定フォーマットがある場合、それに沿っている
- 複数科目を並べたとき、見出し構造が揃っていて比較しやすい
8.まとめ:シラバス翻訳は「整合性×比較可能性」で決まる
留学や単位認定で役立つシラバス翻訳は、上手な英語よりも、比較できる情報設計と一貫性が勝負です。具体的には、以下の3点を徹底するだけで、照会や差し戻しが大きく減ります。
(1)評価軸(到達目標・授業計画・評価方法・学修量)をそろえる
(2)数字・単位・回数を崩さない
(3)学科用語を統一する
最後にもう一つだけ実務の視点を加えるなら、シラバス翻訳は「英語化」ではなく「審査で伝わる化」です。読み手はあなたの大学文化を前提にしていません。だからこそ、ゼミや輪講といった日本独自の授業形態、平常点の評価内訳、課題の種類(essay / report / lab report / project)など、“こちらでは当たり前”の情報ほど、英語で補足しておく価値があります。ここを丁寧に整えることで、提出先は迷わず判断でき、結果的に単位認定や履修許可がスムーズになります。
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