法人の定款は法的な「身分証明書」にあたる大切な書類です。アメリカでは有限責任会社(LLC)や株式会社を設立する際に「Articles of Organization」または「Articles of Incorporation」という書類を州に提出します。日本人の方にとって、この英文の定款は読みにくく、何が書かれているのか分からないことも多いでしょう。特に相続や贈与の場面では、内容を理解しておくことが重要になります。
本記事では、米国定款の特徴となぜ日本語訳が必要なのかを整理し、翻訳を依頼する際に押さえておくべきポイントをご紹介します。
1.Articles of Organization とは?
「Articles of Organization(定款)」は、主として有限責任会社(LLC)の設立時に州政府(州の法務局)へ提出する基本書類です。会社名や所在地、事業の目的、出資者(メンバー)の情報、出資比率などが記載され、法人の「設立証明」として機能します。また、登記後に公開される部分が多く、将来の契約や銀行口座開設の際にも提示を求められます。アメリカでは州ごとに様式が異なり、一部の州では出資者名が非公開の場合もありますが、基本的には会社の骨格を明示するものです。日本の定款に比べて記載内容は簡潔で、会社の内部規程は別途「Operating Agreement」に委ねられることが一般的です。たとえば、管理者の任期や議決方法、利益配分のルールなどは、定款では触れられず別契約書にまとめられていることが多いため、定款単独では会社の全体像を把握できないこともあります。
日本人の感覚では、「定款」と言えば株主総会の招集手続や機関設計など、細かな運営事項が網羅されているイメージですが、米国LLCの定款はむしろ登記簿謄本に近い性質を持ちます。そのため、翻訳する際には、日本の定款との違いを認識したうえで、読み手に誤解を生じさせない工夫が必要となります。

2.なぜ翻訳が必要なのか?
日本在住の方が米国に法人を持っている場合、相続時や税務手続きの際に定款の内容を日本語で理解しておく必要があります。相続税の申告や国外財産調書の作成では、資産評価の根拠として定款を提出する場面がありますし、遺言書の作成や家族信託の組成においても法人の規約を把握しておくことが欠かせません。「英文のままで保管してあるが、どこに誰の名前が記載されているのか分からない」という状態では、相続人間の誤解や手続きの遅れを招きかねません。さらに、財産分配の公平性を判断するためにも、会社の運営権や出資比率を明確にする翻訳は重要です。
相続手続きでは、遺産分割協議書に会社の持ち分をどのように配分するか記載しなければならない場合があります。その際、定款に基づく出資比率や譲渡制限条項を正しく読み解き、日本の民法や会社法の観点から適切な手続きがとれるようにしておくことが不可欠です。また、米国法人の株式や持ち分を日本の相続人が受け取る場合、日本側での登記手続きは不要でも、米国側でメンバーの変更登録を行う必要があり、その際に英文の定款を提示することが求められます。このような場合でも、日本語訳を準備しておくことで、専門家との打ち合わせが円滑に進みます。
相続以外にも、法人の持ち分を第三者に譲渡する場面や、将来的な売却を検討する際には、買い手側が日本語で定款を確認することを求めるケースも増えています。米国法人を日本企業が買収する際には、デューデリジェンス(DD)の一環として定款や運営協定の翻訳が必須となります。海外展開をしている日本企業にとって、英文契約書の訳文を備えておくことはリスク管理の一環と言えるでしょう。このため、信頼できる日本語訳を用意しておくことは、将来の紛争防止策としても有効です。
3.翻訳が求められる場面
定款の日本語訳が必要になる具体的な状況として、以下のような場面が挙げられます。
- 遺言書や遺産分割協議書を作成する際に、会社の権利関係を明確にする必要がある。
- 相続税申告書に添付するため、税務署に日本語で説明する資料を準備したい。
- 海外資産を管理する金融機関や専門家に内容を説明するため。
- 日本国内の家族信託や贈与契約書を作成する際、参考資料として定款の内容を確認したい。
- 会社の持ち分譲渡や売却を検討する際、取引先に日本語訳を提示する必要がある。
- 日本の金融機関で海外法人名義の口座を相続人名義に変更する場合に、法人の実態を説明するため。
- 長期的な資産保全の観点から、家族全員が内容を理解できるようにしておきたい場合。
これらの場面では、単なる直訳ではなく、日本法と米国法の違いを理解したうえで文意を補足する訳が求められます。特に「Operating Agreement(会社運営協定)」など別の内部規約がある場合は、あわせて翻訳することで全体像を把握できます。さらに、証明力を高めるために、翻訳証明書が求められることもあり、その手続きにも精通した専門家の関与が望まれます。なないろバックオフィスでは、翻訳証明書の発行にも応じております。
4.翻訳時に押さえておきたいポイント
米国定款を翻訳する際には、以下のポイントに注意することが大切です。
◯ 用語の統一:
LLCの「member」は株式会社の「株主」とは必ずしも同義ではなく、「出資者」「社員」など文脈に応じて訳語を選択する必要があります。また、出資比率を示す「percentage interest」や資本金に相当する「capital contributions」も、日本の会社法とは概念が異なります。日米の法令の違いに留意しつつ、訳語の統一を図ることで読み手の混乱を避けられます。
◯ 州法の特性:
アメリカは州ごとに会社法制が異なるため、登録住所や主管庁、公開情報の範囲が州によって違います。翻訳文中に州名や条文番号が記載されている場合は、その州特有の制度を注釈で補足すると親切です。また、登録代理人(registered agent)や法人設立代行サービスに関する記載がある場合、日本語訳でもその役割を解説することが役立ちます。
◯ 日付や住所の表記:
米国では月/日/年の順で日付が記載されることが多く、日本語訳では「2025年12月2日」のように順序を変えて表記します。また、住所表記も番地や部屋番号の順番が日本と逆になるため、分かりやすく整理することが求められます。郵便番号や州略称の解説を脚注に入れるなど、読み手の負担を減らす工夫も有効です。
◯ 運営協定との整合性:
定款には記載されない細かな運営ルールがOperating Agreementに定められている場合があります。翻訳の際には、それらの関連文書にも目を通し、矛盾がないか確認する姿勢が大切です。例えば、定款では出資者の名称が記載されていなくても、運営協定に一覧があることがあります。両者を突き合わせ、訳語を統一することで、後々の手続きがスムーズになります。
◯ 専門用語と慣習の違い:
米国では「manager-managed LLC」と「member-managed LLC」という区別があり、管理体制によって権限分配が大きく変わります。これを訳す際に「管理人管理型」と訳すのか「メンバ管理型」と訳すのか、日本の読者に理解しやすい表現を考える必要があります。また、会社が解散・清算する際の手続きや、会計処理のルールも州ごとに異なるため、注釈を加えるなどの配慮が求められます。
5.専門家へ依頼するメリット
定款の翻訳は英語力だけでなく、米国会社法や税務の基礎知識を要する作業です。専門家に依頼するメリットは次の通りです。
- 法律用語や登記事項を正確に翻訳し、相続や税務申告に耐え得る資料を作成できる。
- 翻訳だけでなく、相続全体の流れや米国法人の管理方法についてアドバイスを受けられる。
- 公証や認証手続きが必要な場合、適切な手続きを提案してくれる。
- 翻訳文を第三者に説明する際に、専門家が同席してサポートしてくれる。
- 運営協定や会計書類、税務書類など関連書類の翻訳を一括して依頼できるため、情報の整合性が保たれる。
- 翻訳証明書の発行や、翻訳者としての署名が必要な場合にも対応してくれる。
特に翻訳経験が豊富な行政書士や弁護士など、日米の法律に明るい専門家に依頼することで、翻訳精度だけでなく、相続全体のリスクを減らすことが期待できます。専門家は、州ごとの登記手続きに精通しているため、定款翻訳後の手続きも含めたワンストップの支援が可能です。また、将来に備えて家族全員が理解できるよう、平易な日本語に言い換えてくれる点も魅力です。なないろバックオフィスも、米国法人の定款の翻訳実績が豊富です。
6.翻訳依頼の流れ
実際に翻訳を依頼する際の流れは次のようになります。
まず、翻訳対象となる定款や関連書類のPDFやスキャンデータを専門家へ提供し、内容を確認してもらいます。その後、見積もりや納期が提示され、合意の上で翻訳作業に入ります。翻訳者は原文の正確さを確認するために、不明点があれば質問を行い、用語の統一や注釈の有無を相談します。
完成した訳文はWordやPDF形式で納品され、必要に応じて紙媒体の製本や公証手続きも追加で対応できます。翻訳後も、読者からの質問に答えたり、追補資料を作成したりするサポートを受けられる場合があります。
7.よくある質問と注意点
翻訳を検討される方から寄せられる質問の中には、「どのタイミングで翻訳を依頼すべきか」「英語版と日本語版のどちらを優先すべきか」といったものがあります。
一般的には、相続が発生する前の生前対策として準備しておくのが理想です。相続開始後は法定申告期限までの時間が限られているため、翻訳作業に時間を割けないことがあります。特に海外に資産を持つ場合、各国の手続きが絡むため、余裕をもって準備することが大切です。また、日本語訳と英語原本を併せて保管しておくことで、両国の専門家が同じ情報にアクセスでき、誤解を防ぐことができます。
翻訳の品質を担保するためには、複数人によるレビューを実施し、専門用語の誤訳や数字の転記ミスがないかチェックすることも重要です。翻訳者と依頼者が協力し、最終的な文面を確認しながら進めることで、より信頼性の高い資料を作成できます。
8.専門家選びのポイント
翻訳を依頼する専門家を選ぶ際には、どのような基準で判断すべきでしょうか。
まず、米国法や国際税務に関する知識があるかどうかを確認しましょう。次に、過去に同様の翻訳実績があるか、相続案件の経験が豊富かどうかもポイントです。資格としては行政書士や司法書士、弁護士などが考えられますが、それぞれ得意分野が異なりますので、自分のニーズに合った専門家を選ぶことが重要です。
また、コミュニケーションの取りやすさも大切です。オンラインでの打ち合わせやメールでのやり取りが可能か、料金体系が明確かどうかを確認しておくと安心です。
9.まとめ
米国の定款は日本の会社法とは異なる概念や用語が多く含まれており、相続や贈与、売却といった重要な場面で内容を正確に理解するためには日本語訳が不可欠です。本記事ではArticles of Organizationの概要から翻訳が必要な理由、具体的な利用場面、翻訳時のポイント、専門家に依頼するメリット、翻訳依頼の流れ、よくある質問と注意点、専門家選びのポイントまでを整理しました。
英文書類を翻訳する際は、単語を置き換えるだけではなく、その背景にある法制度や慣行を理解する姿勢が求められます。大切な資産を守るためにも、早めに専門家へ相談し、日本語訳を準備しておくことをおすすめします。これにより、将来の相続手続きがスムーズに進み、家族間の信頼を保つことができます。日本語訳があれば安心して手続きを進められます。翻訳済みの定款は将来の財産管理にも役立つでしょう。なないろバックオフィスでは、米国法人の定款の翻訳実績が豊富です。どうぞお気軽にご相談ください。
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行政書士藤原七海事務所の藤原です。
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